No.a4fhc413

作成 2003.2

 

アメリカとイスラエルの2つの
ユダヤ人社会に横たわるギャップ

 

 

●中東問題の研究家である立山良司氏(防衛大学教授)は、アメリカとイスラエルの2つのユダヤ人社会に横たわるギャップについて、著書『揺れるユダヤ人国家』(文藝春秋)の中で興味深い指摘をしている。

参考までに紹介しておきたい。

 


『揺れるユダヤ人国家』
立山良司著(文藝春秋)


◆立山良司(たてやま りょうじ)◆

1947年、東京生まれ。早稲田大学
政治経済学部政治学科卒。在イスラエル
日本大使館専門調査員、国連パレスチナ難民
救済事業機関職員、財団法人中東経済研究所
研究主幹などを経て、現在、防衛大学教授。
専攻は中東を中心とする国際関係論。

 

※ 以下の文章は、この本からの抜粋
  (P167〜170、172、179、193)です

 

 


 

■「約束の地」は米国?──ガラス越しのキス


米国ユダヤ人の指導者の一人レオナード・フェインは、ユダヤ人国家イスラエルと米国のユダヤ人社会との関係について、こう書いている。

「イスラエルの建国以来、米国から移民したユダヤ人はわずか6万人。これは米国のユダヤ人人口の1%にすぎない」



実際、圧倒的多数の米国ユダヤ人にとって、実生活における「約束の地」は、イスラエルではなく米国であり、世界のユダヤ人人口の半分は米国に集中している。

イスラエルはこのことを実に苦々しく思っている。

1991年1月から2月の湾岸戦争が終了した直後、イスラエル誌は「真の友は誰か」という特集を組んだ。「イラクがスカッド・ミサイルを撃ち込んだ1ヶ月半の間に、米国ユダヤ人指導者のうち誰と誰は本当にイスラエルに来てわれわれと危機をともにした。だが、誰それは同情のメッセージだけで実際には来なかった。また、開戦前にイスラエルに滞在していた誰々は、ミサイル攻撃が始まるとさっさと帰ってしまった」と実名をあげた皮肉たっぷりの特集記事で、最後には「ニューヨーク・フィルの音楽監督ズービン・メータはユダヤ人ではないが、イスラエルに来て激励していった。彼はイスラエルの真の友人だ」とまで書いていた。



イスラエルと米国の2つのユダヤ人社会はあらゆる面で密接に結びつき、場合によっては米国の政治を牛耳っているかのように見られている。確かに両者の関係はきわめて広範で、そのことが両国間にも「特別な関係」を築き上げる背景となってきた。

しかしその一方で、2つのユダヤ人社会の間にはユダヤ教やユダヤ性、ユダヤ民族、シオニズムなどの基本的な概念をめぐり越え難いパーセプション・ギャップが存在する。こうしたギャップを間にはさんだ2つのユダヤ人社会の関係を、米国の中東学者ジョイス・スターは「ちょうどガラス越しのキスを運命づけられた恋人同士のようだ」と表現している。

パーセプション・ギャップの背景をなしているのは、同じユダヤ人社会といってもそれぞれが置かれている状況がまったく異なるという事実だ。



イスラエルは独立宣言にあるように国家自体が「ユダヤ人国家」と規定され、ユダヤ人が完全なマジョリティを構成し、宗教はもちろんのこと、社会や文化、政治などあらゆる面で「ユダヤ性」が維持され、強調されている。使われている言語もヘブライ語だ。それ故、基本的には同化という問題はイスラエルには存在しない。

一方、米国のユダヤ人は『米国ユダヤ年鑑』によれば1995年時点で590万人であり、全人口のわずか2.3%というマイノリティ集団だ。このため、米国では本人が意識的にそうしない限りユダヤ的な生活とは無縁となってしまう。ユダヤとしての宗教や文化、習慣、歴史などを学ぶためには、自らそうした学校やクラスを選ばなければならない。また、米国ユダヤ人の3分の1は非ユダヤ人と結婚しているといわれるように、同化の問題はますます深刻になっている。

宗派の構成も異なっている。イスラエルでは正統派、特にハレディーム(超正統派)が大きな影響力を持っているため、非宗教的なユダヤ人を含め宗派の面では圧倒的多数が正統派に属している。一方、米国では80%以上が保守派か改革派であり、正統派は10%以下と推定されている。 〈中略〉



そうはいっても米国のユダヤ人はイスラエルの国債を買い、寄付金を募り、親イスラエル的な外交政策をとるよう絶え間なく米国政府や議会に圧力をかけている。また、イスラエルへ移民する考えはないにもかかわらず、シオニストとして活動しているユダヤ人も多い。 〈中略〉

軍事面でも米国はイスラエルを全面的にバックアップしている。1973年の「第四次中東戦争」の際には、緒戦で劣勢となったイスラエルに対し、米国が大量の武器や弾薬を空輸して戦況を挽回させた。米・イスラエル間の広範な軍事協力の一つの背景には、イスラエル軍が米国製の兵器を実戦で使用することで、それに改良が加えられるという相互依存の関係がある。 〈中略〉



米国のユダヤ人社会がなかったら、イスラエルは政治的にも経済的にも立ち行かなかっただろう。

アイオワ大学のデイビッド・ショーンバームによれば、1946年から48年までの3年間に全米的な資金調達機関「ユナイティッド・ジューイッシュ・アッピール(UJA)」を通じてイスラエルに対し在米ユダヤ人が行った寄付は約3億7000万ドルであり、このほかにも別のルートによる寄付が相当額あった。この額は米国政府が1948年から1952年までの間にマーシャル・プランの一環としてトルコに対して行った援助総額3億5000万ドルを上回っていた。 〈中略〉



『ガラス越しのキス』の著者ジョイス・スターは次のようなエピソードを紹介している。

米国ユダヤ人会議が主催したイスラエルと米国のユダヤ人同士の対話の席上、イスラエルのユダヤ人が米国の「兄弟」に対し一生懸命説明していた。イスラエルとエジプトがスエズ運河をはさんで「消耗戦争」と呼ばれる砲撃戦を繰り返していた1970年、彼はシナイ半島の最前線にいた。たまたま互いの砲撃が数時間やんだ時、突然、米国ユダヤ人の団体を乗せたバスが最前線に現れた。アメリカ人たちはバスから降り、イスラエル兵と抱き合い、戦車に乗って写真を撮り、「よくやっている。君たちこそ英雄だ」とほめた。そうしてまた、バスに乗って帰っていった。

「これが問題なんだ。あんた方はやって来るけれど、またバスに乗って帰ってしまう」

結局、2つのユダヤ人社会は互いに相手を必要としながらも、ガラス越しにしかキスできない恋人同士のような状態を続けている。

 

以上、立山良司著『揺れるユダヤ人国家』(文藝春秋)より

 

 

 


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