No.a6fhc619

作成 1998.3

 

ナチス・ドイツ時代の「頽廃音楽」

 

~ヒトラーによって、禁じられ、失われた音楽~

 

●1996年9月にポリドールから面白いCDアルバムが発売されている。

これはナチスによって禁制された楽曲を集めたもので、タイトル(邦題)は『これが頽廃音楽だ ~ヒトラーによって、禁じられ、失われた音楽~』である。

 

 

<曲目リスト>

【1】 歌劇「鳥」より プロローグ (ヴァルター・ブラウンフェルス)
【2】 「2つの世界の狭間に」より 戦時-次なる世界 (エーリヒ・コルンゴルト)
【3】 歌劇「アトランティスの皇帝」より 第3場 (ヴィクトル・ウルマン)
【4】 歌劇「ヘリアーネの奇蹟」より 明日は死ぬ定めになっている (エーリヒ・コルンゴルト)
【5】 歌劇「炎」より 前奏曲 (エルヴィン・シュールホフ)
【6】 ロンドーより (ベルトルト・ゴルトシュミット)
【7】 歌劇「烙印を押された人々」より 仮面行列 (フランツ・シュレーカー)
【8】 ドイツ・シンフォニー OP.50より 第1楽章 (ハンス・アイスラー)
【9】 歌劇「堂々たるコキュ」より 幕間劇 (ベルトルト・ゴルトシュミット)
【10】 弦楽四重奏曲 第2番 OP.7「猿の山々から」より 第3楽章:月と私 (パヴェル・ハース)
【11】 歌劇「ジョニーは演奏する」より 第2部フィナーレ (エルンスト・クシェネク)

 

●このCDに付された冊子の解説文(ライナーノーツ)には、「頽廃(たいはい)音楽」について次のような説明が書いてある。

参考までに抜粋しておきたい↓


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──“頽廃音楽”シリーズについて──


「“頽廃音楽”とは、以下の3つのコンセプトに基づいて録音されたシリーズである。

【1】 20世紀における政治的な破壊工作によって、失われ、壊され、禁じられた重要な作品。ことに第三帝国によって弾圧された音楽。

【2】音楽において、成熟する以前に摘み取られたものの、価値の高い、あるいはほとんど推し測ることすらできないほどの貢献を20世紀音楽に与えた革新や傾向、着想を代表する作品。

【3】 亡命者たちの音楽、すなわち新たな刺激や挑戦に対する、作曲家たちの対外的な反応。そして、自分たちの本来の音楽言語を理解できず、あるいは理解しようとしない異国に対する、作曲家たちの内面での反応。

〈中略〉

クシェネクの《ジョ二ーは演奏する》は、ジャズ的で破壊的な作品のように思われた。それゆえ、ナチスはこの作品を、音楽に対する自分たちの野蛮な攻撃を正当化するために用いたのである。コルンゴルトの《ヘリアーネの奇跡》は、悪に対する徳の、壮大で象徴的なお伽話であり、音楽もポスト・ロマン主義というよりは超ロマン主義的であるが、上演は禁止された。なぜならコルンゴルトはユダヤ人だったからである。

クシェネクはカトリック信者であった。この2人の作曲家の場合は、一方で人種的な芸術政策、他方では非伝統的なものに敵対する芸術政策という両面の破壊性をよく表わしている。この両極の間の世界こそ、“頽廃音楽”のシリーズが、少なくとも部分的には回復させたいと望む世界なのである。」

 

──“頽廃音楽”が有する過去および未来にとっての意義──


「ミュンヘンにおける“頽廃芸術”展開幕の1年ほど後に、ナチス政府の文化政策官たちはそれほど知られていないもう一つのショーを開催した。この展覧会は“頽廃音楽”展と銘打たれており、1938年にデュッセルドルフで開かれたのである。

“頽廃(たいはい)”という言葉は、19世紀に医者で犯罪学者のチェーザレ・ロンブローソが、異常な状態を示すものとして作り出した。すなわち、“異常性”が“頽廃”として理解されているのである。

ナチスのイデオロギーの宣伝担当者たちは、この専門的な概念を適用し、それを無調の音楽やジャズのアレンジ、そしてとりわけユダヤ人の作曲家たちによる作品を貶(おとし)めるために用いた。

マックス・ノルダウが彼らより一足早く用いていたが、彼らは科学的な観念を採り入れ、それを保守的な文化批評に奉仕するために応用したのであった。こうした意味の転義のもたらした恐ろしい結果は、“頽廃”という概念が新たな規範になったということである。すなわち、人種的な起源に基づく法によって独裁された音楽の理想という規範である。」


「ナチスによって“頽廃”の烙印を捺(お)され、誹謗された音楽は、実際のところ広範な種類の様式を含んでいる。というのも、彼らの唯一の目的は、単にドイツの音楽生活全体、すなわちもっとも人気のあるオペレッタから前衛に至るまでが、統一の取れたものであり、優秀であるということを確信させる点にあったのだから。

〈ワグネリアン〉や反ユダヤ主義、そして彼らが信じていたアーリア人の優越性といった、人種的な教義を混ぜ合わせることにより、検閲によって上演(や職)が差し止められるようになった。まずはドイツ内で、そして次に占領地域内で、この政策が実行された。これに影響されたほとんどの音楽家たち(演奏家、作曲家、音楽学者、そして教育者たち)は亡命を余儀なくされた。それによってヨーロッパの音楽生活には深刻な漏出が生じ、その結果は今日でもまだ認識されたり見積もられたことがほとんどないのである。

〈中略〉

……ナチスの危険なプロパガンダ用語であった“頽廃”という言葉は、今日、政治・文化的な議論の語彙からは姿を消している。たとえば人種的な規範のような、何らかの規範に依存して音楽を作るという着想は、国際的な音楽を制作するというわれわれの時代においては、馬鹿馬鹿しいものであることは明らかである。

他方、現代にはラジオの聴取率やレコードの売り上げ枚数といった評価方法の上に、価値の規範を新たに設けるといった、はっきりとした傾向がある。そうした傾向にとっては、まだ民族主義的な共感を感じている人々にとってと同様、いわゆる“頽廃音楽”の歴史的な標本は、事前に規範を設けてしまう試みの警鐘となるであろう。同時にまたそれは、ベラ・バルトークが議論したような文化的多元主義への請願書ともなろう。〈後略〉 」


以上、『これが頽廃音楽だ ~ヒトラーによって、禁じられ、失われた音楽~』の解説文より

 

 


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