ヘブライの館2|総合案内所|休憩室 |
No.a6fhd812
作成 1998.2
●ユダヤ教徒のメシア運動の歴史を見て、改めて気付くのは、やはりユダヤ教徒の持つ独特で強烈な「選民」意識である。
『聖書』によれば、ユダヤ人は神と特別な「契約」を結び、地上の楽園化を実現する民族として選ばれた。世界には様々な言語を話す、おびただしい数の民族があるが、それら諸民族の中から、特に神が選びだして聖なる使命を与えた民族──「選民」は、ユダヤ人以外にはないと、彼らは信じたのである。
●それゆえ彼らは、あえて布教をしない。神はとくに布教を命じていないからであり、また、布教を行って世界をユダヤ教化することが目的でもないからである。もちろん、ユダヤの神の栄光と絶対権威を悟ってユダヤ教に改宗する者がいれば、ユダヤ教は彼らを受け入れ、ユダヤ人として遇する。しかし、異教徒に改宗を無理強いすることはない。
それより大切なのは、神とユダヤ人の間に交わされた契約の純潔を守ることであり、来るべき「新メシア時代」までユダヤ教徒として結束しつづけることこそが、彼ら民族の聖なる使命なのである。
●キリスト教では、イエス・キリストのみを「神の子」と位置づけている。しかしユダヤ教では、全ユダヤ人が「神の子」だと教えている。この他に類を見ない「選民思想」のゆえに、キリスト教やイスラム教は、ユダヤ教を「独善的で神を冒涜する宗教だ」と否定した。
さらにカバラ(ユダヤ神秘思想)が、ユダヤ教否定のもうひとつの原動力となった。というのも、ユダヤ教徒はカバラの秘術を使ってさまざまな呪文や護符を操り、異端的な魔法を行っているとか、泥土から生きる人形(ゴーレム)を造りだしているなどと信じられ、ユダヤ人=魔術師、妖術師といった考え方が、ヨーロッパのキリスト教圏を中心に深く広く根づいていったからである。
●ユダヤ人に対するいわれのない恐怖心は、後に「ユダヤ人による世界征服計画」という強迫的観念や、ユダヤ人を地上から駆逐するという“ホロコースト思想”となって結実していく。そして、そのユダヤ人に対する強迫的観念は、彼らユダヤ人たちの終末についての解釈の特殊性にも起因していた。
●ユダヤ教から出たキリスト教やイスラム教では、ユダヤ教同様、この世界の終わりと神の裁きのときが必ずやってくると信じている。ただしその際、誰が救われ、誰が滅ぼされるかという点で、三者の理解はまるで異なる。
キリスト教やイスラム教では、特定の民族が救われるという考えはとらない。宇宙の唯一絶対神に帰依し、その教えに従って正しく生きた者なら、だれでも神の大いなる救済という恩寵にあずかれると教える。
しかし、ユダヤ教の理解は異なる。
彼らの信じるところでは、救われるのは神と契約を交わしたユダヤ人だけであり、その他の異邦人は、すべて滅ぼされる。しかも、人類の歴史は、すべて「神の計画」通りに進行する。その「神の計画」を、地上で推進する役割がユダヤ人に振り当てられていると信じている以上、彼らユダヤ人が、「神の計画」実現のために世界をユダヤ化すべく動いたとしても不思議ではないという想像から、「ユダヤ人による世界征服計画」といった強迫観念が容易に信じられてきたのである。
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●このように、ユダヤを取り巻く問題は、すべて彼らが神と結んだとされる「契約」から発している。この契約があったからこそ、ユダヤの民は神の「選民」になったのであり、彼らが神の選民であることを一貫して主張し続けたがゆえに、反ユダヤ勢力は、ユダヤ人への残酷極まりない迫害を行い続けてきたのである。
なお、ユダヤ青年イエスは、彼らユダヤ人が神と結んだとされる「契約(旧約)」を「新しい契約(新約)」に刷新する活動(ユダヤ教改革)を展開したのであるが、イエスの教えを拒絶したユダヤ人(パリサイ派ユダヤ人)たちはイエスを迫害し、結果的に、イエスは公開処刑されることになった。これによってユダヤ人たちは「イエス殺し」の汚名を背負うことになり、後のキリスト教社会においてユダヤ人が迫害される大きな要因になった。
イエス・キリストの磔刑像
●この問題は現在になっても解消されたわけではない。今もなお、ユダヤ教とキリスト教との一番の争点は、「イエス」の存在に対する解釈の違いにあるのだ。『旧約聖書』には「メシア(救世主)」についての預言が340ヵ所あると言われているが、キリスト教徒は、その全てがイエス・キリストに当てはまると主張している。しかし、ユダヤ教徒はイエスを「預言者の1人」として認めはするが、断じて「メシア」とは認めないのである。
●もっとも、ユダヤ人の中には「メシアニック・ジュー」といって、ユダヤ教を保持したまま、イエスをメシアと信じるユダヤ人が、少数ながら存在している。彼らは、自分たちを「クリスチャン」と呼ばず「メシアニック・ジュー(ジュダイズム)」と呼んでいる。
●振り返って見れば、イエスの12人の弟子は全てユダヤ人であったし、イエスに帰依した民衆のほとんどもユダヤ人であった。彼らはあくまでもユダヤ教の範囲内でイエスを信じていたのである。
当館では彼らを「イエス派ユダヤ教徒」と呼んでいるが、このグループが現在、わずかではあるが復活しつつあるというわけだ。
※ この古代の「イエス派ユダヤ教徒」に関しては、当館3階「古代ヘブライ研究室」をご覧になって下さい。
●ただし、イスラエル国内での「メシアニック・ジュー」に対する差別は、かなり厳しいものがあるという。同じユダヤ人によって職場を追われる人もいるらしい。
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