ヘブライの館2|総合案内所|休憩室 |
No.a6fhd821
作成 1998.2
●一般にユダヤ教には「カルト」が存在しないと言われているが、敬虔なユダヤ教徒たちが2000年前から持ち続けている最終悲願は、「ソロモン第三神殿」建設と「失われたイスラエル10支族」との再統合、そして「メシア(救世主)」到来である。
メシアを待ち望むユダヤ教徒たち
●イスラエルのユダヤ教徒の一日は、朝の祈りから始まる。その祈りの中には13から成る内容が含まれている。それは神はひとつであることから始まり、モーセを通して神は十戒を与えたこと、そして最後にメシアが来るという祈りで終わる。いわばユダヤ教のエッセンスであり、世界中のユダヤ教徒によって毎日唱えられている。
●ユダヤ教団体の経営する幼稚園では、終わる前に必ず歌を歌う。歌の内容は次のようなものだ。
「今日も終わりました。明日、もしメシアが来なかったら、元気に明るく幼稚園へ出かけましょう」
このように、ユダヤ教徒は日課の祈りの中でメシアの到来を願っているのである。
エルサレム旧市街の神殿の丘に位置する「嘆きの壁」
壁の全長は約60mで高さは約21m。壁の石の隙間には、
ユダヤ教徒の祈りの言葉が書かれた紙切れがぎっしり詰まっており、
夜になると夜露がたまり、壁に生えたヒソプの草を伝って滴り落ちる。
それが数々の迫害や苦難を受けて涙を流すユダヤ人のようでもある
ことから、「嘆きの壁」と呼ばれるようになったという。
●イスラエルのラビ(ユダヤ教指導者)であるイスラエル・ゲリスは、この国で起きているメシア待望の動きを次のように語る。
「2週間前、私の知り合いの98歳になる老人が亡くなりました。彼は死ぬまで近くにカバンを用意し、そこにはユダヤ教に必要なものを入れていました。それは、もし『メシアが来た』と聞いたとき、すぐにでも出かけられるための準備だったのです」
「今から85年前、ミルバビッチというロシアのラビが、ユダヤ人は共産主義によって困窮するだろうが、それは50年は続かないだろうと『聖なる手紙』のなかで預言していました。今まさにその通りになったわけです。
先日、私はロシアへ行き、モスクワのポポス市長と会いましたが、その時に彼は『スターリンもユダヤ系。イスラエル建国前に最初に入植したユダヤ人もロシアからで、ソ連崩壊もユダヤ人と関係があり、それはアメリカのユダヤ人から起こってきた』と語っていました。
ゴルバチョフだって、ロシア系ユダヤ人のイスラエルへの大量移民を見て『自分は“出エジプト記”のモーセになったような気分だ』と新聞で語っているほどである。ソ連もアメリカも世界平和のために最大の努力をしてきたが、すべて計画通りにはいかなかった。今、何か人間の叡智では計り知れない力が働いているということがわかるはずです」
このイスラエル・ゲリスは、現在の世界情勢を見てもメシア到来の日は近いというのである。
ユダヤ教のラビ
イスラエル・ゲリス
●聖地エルサレムの「嘆きの壁」から歩いて5分の所に「神殿研究所」がある。
この「神殿研究所」では、「ソロモン第三神殿」の再建予想図をコンピュータ・グラフィックなどを使って細部にわたって仕上げている。それは『旧約聖書』や『タルムード』や聖書考古学などの、正確な情報のインプットから生まれたものであるという。この神殿研究所では他に、来たるべき日に用いられる祭司服や神具などの製作を行い、本格的な準備を進めているのである。
(左)「神殿研究所」の入り口 (右)チャイム・リッチマン
●「神殿研究所」の代表者のラビ、チャイム・リッチマンは次のように語る。
「メシア思想とソロモン第三神殿の再建。この2つがユダヤ教のなかでもっとも大切なことです。そして神殿は、ユダヤ人が建てなければならないし、モリヤ山でなければならない。それは『旧約聖書』に書かれているように、神が選んだことであり、預言者によって預言されたことです。人間の考えによって、変えることはできないのです。
しかし、現実にはそこに岩のドームがあり、それを排除してソロモン第三神殿を建てるなら、世界中のイスラム教徒が聖戦をしかけ、ユダヤ対アラブの対立どころではなくなります。現在の政治状況のなかで、我々は暴力によって神殿を築こうとは思っていません。ただ、今準備できることをしているだけです。そうすることによって、より理想に近づくことができるし、約2000年の空白を埋めることができるからです」
(左)イスラエル(パレスチナ地方)の地図 (右)イスラエルの国旗
(左)聖地エルサレム=シオン(Zion)の丘 (右)エルサレム旧市街
●『旧約聖書』によると、神殿の頂点に立つ大祭司には“アロン家”の血筋でないとなることができない、と言及されているため、ちゃんとアロン家の子孫のための「祭司養成所」が設立されている。そこでの生徒数は約150人で、そのうちの15人が純粋なアロン家の子孫であるという。
(左)「祭司養成所」の学習室 (右)ソロモン・アビネ
●「祭司養成所」に所属するラビ、ソロモン・アビネは次のように語る。
「アロン家は2000年前、大祭司として神殿で神に仕え、イスラエルのすべてのユダヤ人にユダヤ教のことを教えるユダヤ人の指導者でした。現在、イスラエルには、400万人のユダヤ人がいて、残る900万人は世界に離散している。ロシアからの移民は、その意味で奇跡であり、このことからも今がその“準備の時”であることがわかります。ソ連崩壊など現実の世界情勢のなかで、今ようやくユダヤ人は目がさめたのです」
「神殿が建つのは、あくまでもモリヤ山であり、いつの日かそこにソロモン第三神殿が建つのを信じています。また、メシアはイスラエルの理想的な指導者で、そのメシアが来る前には、世界中のユダヤ人が全てイスラエルに戻ってこなければなりません」
「メシアが先か神殿が先か、わかりませんが、神殿が建つまでには、世界に平和が来なければなりません。つまり、それはイスラエルの国を昔のように再建し、経済を支え、理想的な国家にすることにつながるのです。そうすれば、ほかの国々がそれを学び、同じような平和的な国家を求めるようになるでしょう。たとえば、ソロモンの時代にシバの女王がその栄華を見にきたように……。あくまでもイスラエルが世界の模範となることが先決で、そこにメシアが到来し、人間がモラル的になって、ほんとうの世界平和が訪れるようになるのです」
◆
●全世界のユダヤ人をユダヤ教に回心させることを目指す団体に「トーラーの道」がある。1975年に設立され、イギリスに10支部、アメリカに6支部のネットワークを持つ。この団体に所属するケン・スピローは、現状のユダヤ人社会を嘆いている。
「ドイツのユダヤ人はドイツ人になろうとして、フランスのユダヤ人はフランス人になろうとして、ユダヤ教を捨てた。彼らは真理を捜しているが、聖書から離れて真理を求めることに誤りがある。また、今のシナゴーグは議論ばっかりで、まるで動物園のようだ」
「トーラーの道」に所属する
ケン・スピロー
●ところで、ユダヤ人が渇望するメシアとはどんな人物なのだろうか? そしていつ我々の前に現れるのだろうか?
これに関してケン・スピローは次のように語っている。
「メシア到来の時期は、ユダヤ暦によれば、『創世記』から始まって、今は5756年。タルムードには、6000年までにメシアが現れると書かれている。それがギリギリの期間です。モーセもメシアになれる可能性があったが、当時のユダヤ人が罪を犯したためになれなかった。バル・コクバ(紀元132年にローマに反乱を蜂起したラビ)にもその可能性があった。このように何人かがその可能性を秘めていたが、なれなかった。だからもう、そんなに時間はないのです」
●そして、ケン・スピローは7000年を1週間にたとえ、1000年を1日にすると今はちょうど「金曜日の12時ごろ」になるというたとえを引き合いに出す。ユダヤ暦の1週間は日曜日から始まり、土曜日で終わる。そして安息日(一日働いてはいけない神の日)は、金曜の夕刻の日没から土曜の日没まで。つまり、金曜日の12時となると、安息日の約6時間ぐらい前にあたる。
「我々ユダヤ人にとって最もあわただしい時で、安息日に備えて仕事をより多くこなし、食事もいっぱい作っておかなければならない混乱の時です。この混乱はメシアを迎える最後の時にたとえられます。つまり、湾岸戦争、ソ連の崩壊、民族問題の噴出などの世界の混乱は、安息日前の金曜の12時ごろ、メシアを迎える前のあわただしい準備期間だと考えることができるのです」
ソロモン第三神殿の再建模型
●なお現在、神殿の丘には部族の門、鉄の門、綿商人の門など8つの門がある。その中で「開かずの門」として知られ、今も閉じられたままなのが「黄金の門」である。
この「黄金の門」は約2000年前、イエスがロバに乗り、メシアとして神殿入りしたときに通った門ともいわれている。そして、ユダヤ教徒が将来「ソロモン第三神殿」が再建され、彼らのメシアが神殿入りする時に通ると信じている門なのである。イスラム教徒はそれを阻むために封印したのであるが、ユダヤ教徒は将来のメシア到来の日、この門が開かれると信じている。
今も封印されたままである聖地エルサレムの「黄金の門」
※ 将来のメシア(救世主)到来の日、この門が開かれるという…
●ケン・スピローによれば機はすでに熟し、いつメシアが来てもおかしくないというのである。
果たして彼らが待望する「メシア」は現れるのだろうか?
「ソロモン第三神殿」再建の夢は実現されるのだろうか?
そして世界に散らばった「失われたイスラエル10支族」は、彼らのところに戻ってくる(再統合される)のだろうか?
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